嵐の山荘で起きた2つの育毛剤紛失事件!
隣り合った部屋で横たわる空の容器。まだ30歳の私は、何が何でも生やしたい。
避暑地にある別荘で、最新育毛剤が隣り合わせた部屋で1つずつ使用済みとなって発見された。
2つの部屋は、浴室と洗面所で、いずれも抜け毛が散乱。
容器が発見されたときの泰蔵には、もう髪が……。
おりしも泰蔵の頭に異変が起き、愛用の育毛剤さえ通じなくなる。
泰蔵&アコたんシリーズナンバーワンに挙げる声も多い、愛と感動とサスペンスと育毛剤に満ちた泰蔵物語。
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「ここなら、私の気持ちを思いっ切り大声で叫んでも、誰にも聞こえませんね」
「僕に聞こえる」泰蔵は、ポケットから鏡を取り出した。
「叫んで良いですか?」
「叫ばなくても聞こえるよ」
「泰蔵、髪が薄い」
「そうみたいだね」彼は鏡を見て、無表情で答える。
「ご存じでした?」
泰蔵は振り向いてアコたんを一瞥する。
「君よりはね」
アコたんは、泰蔵から遠退き、離れてプロ南のベンチに座った。こういった場合の人間どうしの距離はとても難しい。
今、彼女は、泰蔵との間を40mほど開けた。
もちろん、半径2km以内に近づけさせないのが将来的な目標だが、現状では、20m以下ではやや吐き気がするし、60mでは泰蔵が泣いてしまう、と思った。
しかし、たった今、自分が行っている裁判と、これは矛盾していないか?
(私以上に知っているって……、余程気にしているのかしら)
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「では、もう1つ、例を挙げよう。アコたんは、僕に対してBOT取り締まりを求めているようだけど……」
「それだけじゃありません」
「しかしね、そもそもBOTそのものが、プレーヤーの産物なんだよ」泰蔵はアコたんの言葉を無視して続ける。
「つまりは、遊ぶためにBOTを使う、といっても良い。遊ぶ、ゆえにBOTあり、ってこと。遊ぶことを想定しないBOT、というものは、たぶん、ありえない」
「いつか垢バンされて遊ぶことができない人なら、いるんじゃないですか?」
「いる」泰蔵は頷いた。
「しかし、その場合でも、遊ぶことを期待してはいるんだ。違うかな?いつか行われる垢バン、しかし、未来の豪遊を期待するか、あるいは、GMに、その垢を停止させられてしまうか」
「うーん」アコたんは唸る。「ちょっとしたチートなんかも、そうかしら?」
「そうだ」泰蔵は頷く。
「同じだと思う」
「なのに……」アコたんは鈍器を置いて、肩を竦めた。殺るのはひとまずやめようと思った。
「どうして、どのGMも垢バンしないのかしら?」
「そう……、そこだね」泰蔵はクシで残り少ない髪を整えながら答える。
「それを解釈するには、こう言うしかないね」
泰蔵はそこでしばらく黙った。
アコたんは、改めて鈍器を構えたまま、待つ。
だが、彼はそのまま何も言わなかった。
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